

気分の波と体質の関係
| はじめに |
〝体質〟あるいは〝気質〟とは、
後天的な性格などとは違って
生まれた時には、既に
その人の内に在るものを云います。
生まれた時には
既に与えられているものです。
体質や気質というものは
各人各様で様々ですが
そうした中に、
「気分の波」のある体質を持つ方が
いらっしゃいます。
そして、この体質を持つ方と
カウンセリングでお会いする機会は
わたしの場合には
意外に多いと感じていますが、
一般的には、
この体質を持つ人が
何かのきっかけで
カウンセリングに行ったり、
クリニックを受診したとしても
カウンセラーや精神科医にさえ、基盤にある気分の波が見落とされることが多い。
神田橋條治 精神科医
・・・という現実があります。
そして何よりも
ご本人自身が
自分の体質を分からずにいる事で
不要に苦しんでしまうこと・・・
などが起きがちです。
| 気分の波と気分の動き |
次のように
打ち明けてくださる方もいます。
掲載は了解を得たものです。
気分に波のある気質かどうか、自分ではよく分からないです。
職場でハイテンションだけれど、家に帰って一人になると落ち込んで、繰り返し職場のベランダから飛び降りるイメージが出てくる、ということはよくあります。
あと「やり過ぎてしまう」というのは、とてもよく分かります。
先生がおっしゃっていた「人懐っこい」ということとも、関係があるのかも知れませんが、私が「面白キャラ」として何かをしたことで、職場の人たちが喜んだとして、その時に私の中に、抗い難い嬉しい気持ちが湧いてきて、もっともっと、と自分を駆り立ててしまうことは、あるように思います。
そして、自分がすっかり必要以上に「面白キャラ」になってしまったことに、後からひどく後悔して落ち込んだり。
誰でも気分の波があると思うので、私が特別に気分の波がある気質なのか、ということが自分では判断が出来ないところではあります。
ただ、確実に言えるのは、私の母は恐ろしく気分の波がある人だ、ということです。
私が小さいころ、ふいに不機嫌になったり落ち込んだりして、私はそれが自分のせいだと思って、母の機嫌がよくなるまで一緒に落ち込んで、顔色をうかがっていました。
| 人柄の違い |
同じ体質を持つ人であっても、
普段の性格だとか
〝気分の波〟の現れ方には
皆さんそれぞれに
違いがあります。
ですので
自分自身を理解してゆくことが
大事なことになります。
たとえば、普段から
活動的で賑やかな面が
表に現れている人もいます。
「じっとしているのが苦手」などと
評されたりもします。
専門学校を卒業後、23歳で結婚。主婦業のかたわらスタイリスト、ファッションアドバイザーの仕事をし、34歳から54歳まで、某大学の講師もつとめた。
元気印の人間で通っており、クラス会の幹事を毎年引き受け、友人たちからは、人の10倍は働くなどと言われていた。
車の運転を好み、高速道路を飛ばして走るのが何よりのストレス解消法であった。
(ある報告からの引用)

| 〝気分〟が意味するもの |
上の女性が語っているように、
「誰にでも、気分の波があるのでは?」
そう云われることがあります。
しかし、ここで云う
「気分の波のある体質」では、
「気分」としか呼びようがないので
気分と呼んでいるだけで、
この場合の「気分」とは、
本人の気持ちだとか、感情だとか、
自覚的な意識とは
別のところで動き出す
〝何ものか〟のことを、意味しています。
そして、この〝何ものか〟の動きに
強く引っ張られて
気持ちや感情も、一体になって
そちらへ動いてゆくことになります。
これは気分が高揚してゆく時も、
低調になってゆく時も
同じことが云えます。
ですので、その時の
本人の(自分の)気持ちや感情だけを
見ているだけでは
ここで云う〝気分の動き〟を
よく把握できません。

| 抗いがたい高揚感 |
何かのきっかけで
〝気分の波〟が高く動いてゆくと、
浮いてゆく様な高揚感に
気持ちや感情が引っ張られて
拍車がかかって止まらなくなる。
やり過ぎてしまう。
・・・ということが起こります。
あるいは、
上の女性が語っていたような
抗い難い嬉しい気持ちが湧いてくると、
もっともっと、と
自分を駆り立ててしまう・・・。
このような面が、たとえば
初めてのデートで起きてしまうと、
相手によっては、
「あんなに二人で盛り上がった」
・・・筈なのに、次からは
何故か相手が引いていく・・・
ということが起きてきます。
逆に云うと、こうした面が
マイルドに発揮されることで
「明るい人」「面白い人」
「一緒に飲んでいて楽しい人」
「場を盛り上げるのが上手な人」
・・・のような評価を
受けることにもなります。
ですので、自分が持っているものを
上手に発揮してゆくことが
イキイキした生活を送る上で
とても大切になります。
(この体質の人は)
たんに気分の波があるだけでなく、秘めることが不得意で、感性や感情が行動に直結しやすいが、かえって言葉では表現できない微妙な〝こころの綾〟を感知する能力があり、人と接する職業などで成功することが多い。
神田橋條治 精神科医

| 不安定になってゆく時 |
この体質を持つ人にとって
注意しなくてはならないことは、
窮屈な状態や環境を強いられたり。
窮屈な枠の中に
押し込められたようになったり。
あるいは、頑張って自ら自分を
窮屈な枠にはめるような
生活をし続けていると、
生まれ持っての気分の波が
かえって不安定になることが
起きてくることです。
そうなると、
不安定な〝気分の動き〟によって
自分自身が
不安定な情緒・不安定な精神状態に
なってしまいがちです。
(この体質の人は)
伸び伸びした環境や人生を求めており、窮屈な環境の下に置かれると苦しくなり、情緒が不安定となって種々の問題行動が出てくる、などの特徴がある。
そして「のびのび感」が生活の中で増えると、波は小さくなるのが普通で、生活の障害にはならなくなる。
神田橋條治 精神科医
| 育児・子育ての家庭生活 |
この体質を持つ女性の中には
育児・子育ての生活が
ここで述べている〝窮屈要因〟として
強く働く場合があります。
そうなると、もちろん
ご本人自身が苦しい精神状態に
追い込まれていきますが、
それが種々の
不安定な言動として現れることで、
その結果、パートナーが
奥さんのことを理解できなくなって
夫婦関係に亀裂が生じてくる
・・・という場合も生じてしまいます。
ですので、ご自分の体質への理解が
最も大切になります。
カウンセンリグでは、そうしたことも
ご一緒に考え、話し合っています。

| 気分の低下と抑うつ |
〝気分の低下〟については
「ダウンの時期」と表現される方も
いらっしゃいます。
しかし、気分の低下は
不機嫌さ・イライラ感・怒りっぽさ
・・・などとして 現れることが
多いかも知れません。
(低調な気分は)
イライラ感に引き続いてやって来ます。
そう仰る方も、いらっしゃいます。
こうしたこともあって、
ご自分のことを
不機嫌うつ病なんだと思ってた。
そう打ち明けてくださる人もいます。

| 気分の低下の動き |
気分の低下の動きが強くなると、
沈んでゆく動きに
気持ちや感情が引っ張られて
悲観的な思い・ネガティブな感情が
連鎖していきます。
過去や将来について、ちょっとした不安が浮かぶと、それがグルグル連鎖反応を起こして、悪循環の思考に入って しまうことがある。
細かいこと・小さなことが
ひどく気になって、
心配や不安が頭から離れなくなる。
ご本人自身が、ひどく辛くなるのは
このような時期なので、
こうした状態になって
クリニックを受診したり
カウンセリングに行かれる方も
少なくないように思います。
しかし、上にも記したように
多くの場合
カウンセラーや精神科医にさえ、基盤にある気分の波が見落とされることが多い。
神田橋條治 精神科医

| 個性的な魅力と能力 |
この体質を持つ人たちの中には
個性的な魅力を備えていたり、
特異な才能や能力を発揮する人がいます。
この体質が
クリエイティブな創造性として
発揮されることも珍しくありません。
あるいは、
感覚的なものに秀でていて
臨機応変の能力に長けていたり。
職場などでは
コミュニケーション能力が高い、と
評価される場合もあります。
しかし自分では、むしろ
苦手だと思っている場合があります。
この体質を持つ人は、
相手が求めているものを察して
臨機応変に合わせる能力があるため
たとえば、重役の秘書などで
高い能力を発揮している人もいます。
その一方で、
それを自分の能力だと分からずに
わたしには、本当の自分というものがない。
と悩む場合があります。
カテゴリー【こころの物語】