
心のフラッシュバック
| はじめに |
心のフラッシュバックとは
過去の「傷つき体験」だとか
「怖かった体験」を連想させるような何か
(状況だとか言葉・音 等)
に遭遇したときに
(これをトリガー/引き金と云います)
「あの時」の感情や感覚が
突然蘇ってくることで
様々な心身の反応を
引き起こす状態をいいます。
例えば、
頭が真っ白になったり。
混乱し動揺して震えてきたり。
不安や恐怖でパニックになったり。
衝動的な怒りが湧いてきて
突然激しい言動を示したり。
たとえば相手からしてみると
「そんな事くらいで、どうしてそこまで!?」
・・・という事になって、関係が壊れてゆく場合があります。
ひどく辛くなったり苦しくなって
そこから逃げ出したくなったり。
(立ち去れるような場合には)
突然その場から立ち去ったり。
仕事の場で遭遇するフラッシュバックのために(もちろん、ご本人もそれがフラッシュバックだとは、分かっていません)転職を繰り返すようなケースも存在します。
全否定された様な思いになって
絶望的になったり、自信を喪失したり。
・・・というような、様々な反応が
引き起こされることになります。
| ふたつのフラッシュバック |
あるときテレビで
住宅街での爆発火災のニュースが流れ、
現場の近所に住む老人が
「爆発音を聞いて、太平洋戦争の時の東京大空襲の情景を思い出して、とってもこわかった」
TVカメラの前で震えながら
そう語る姿を見たことがあります。
フラッシュバックには
この老人の例にもあるように
「あの時」の情景だとか記憶が
生々しく甦ってくるケースがあります。
多くの人が持つ
フラッシュバックのイメージとは
そのようなものかも知れません。
たとえば、
事件や事故などに巻き込まれた人たちが
その記憶から逃れられずに
様々な反応を引き起こすものとして。
しかし、実を云うと
そのようなフラッシュバックは
どちらかというと少数派になります。
それと云うのも、
わたしがカウンセリングで出会う
フラッシュバックの多くは
感情(情動)や感覚だけが反復想起
される形のために
フラッシュバックが起きている(いた)
と気づくことは
本人自身も難しくなります。
しかも、フラッシュバックとなる体験も
大きな事故や
何か大きな出来事などではなくて
生活の営みの中で・
普段の人間関係や出来事の中で
作られているものです。
| 三島由紀夫の話 |
作家の三島由紀夫が
あるインタビューの中で
このようなことを語っています。
体験ていうのは誰でもあるんですけども、それじゃあ、たとえば死にそうな体験をしたとか、エベレストに登って落っこちそうになったとか、そういうのばかりが〝体験〟ではないんですよね。
〝体験〟というのは分からないところに隠れていて。
たとえば道を歩いている時に、ちょこっと小石につまずいて・・・
その小石というものが、人生で大きな意味を持っちゃうことがある。小さな石がね。
しかも
「養老孟司さんのケース」にもある通り
トラウマ感情は
一瞬の無意識のうちに刻み込まれために
本人にも分かりません。
たとえば、ある女性のご相談者が
長年悩んで苦しんでいた事が
フラッシュバックであると分かり
そういう時には皆んな、自分と同じようになるんだと思ってた。でも他の人たちは、それを表に出さずに普通に振る舞えてる。わたしはそれが出来ずに混乱したり泣き出したりして、周りの人に迷惑をかけてしまう。
だから自分はダメで劣っている、と思って来たんです。
そうおっしゃったことがあります。
神田橋條治 精神科医
パニックや衝動的反応がみられたときには、フラッシュバックではないかと、まず考えてみてください。
フラッシュバックという言葉が映画に由来するので、視覚イメージだとみんな思っているでしょ。そうじゃないんですよ。

| 情動反応ゆえに |
つまりフラッシュバックとは、
過去の体験感情が反復想起されることで
様々な心身の反応が引き起こされる
「情動反応」のことです。
情動反応ですので、
「気の持ちよう」
「考え方を変えてみる」などで
解決されるものではありません。
情動とは
感情のエネルギーのより強いものを云い、
発生する情動が強いほど
自律神経系を通して
様々な心身の反応を
瞬時に引き起こすことになります。
神田橋條治 精神科医
多くの患者さんたちで、フラッシュバックのトリガー(引きがね)になったものは、余りに小さいために、なかなか気づいていないことがあります。

女優の荻野目慶子さんが
ご自分の体験を雑誌に記しています。
荻野目さんは、恋人が
荻野目さんのマンションで
首吊り自殺しているのを発見します。
例えば、ある音が耳に入ったとする。それが記憶・・・故人の思い出につながるようなものだとすると、途端に血液が逆流するような気分に襲われ、呼吸が激しくなり、涙が止まらなくなる。その泣き方も悲鳴に似たもので、それまでとはまるで異質のものだった。
音だけでなく臭い、温度、視覚的なもの・・・ハンガーやフックなど日常にありふれた物にも、次々と連鎖反応が起こり、何を見るのも怖くなった。
あらゆる場所でフラッシュバックと呼ばれる現象が起きた。

| 日常の中で作られる |
フラッシュバックの背後では
傷つき体験からくるトラウマ感情が
反復想起されています。
傷つき体験・トラウマ体験というと
幼児期だとか子ども時代を
連想するかも知れません。
しかし、フラッシュバックとなる体験は
小さな頃ばかりではなく
思春期や成人してからでも
経験するものです。

| 回復のために |
フラッシュバックからの回復には
それがフラッシュバックであると知ることが、まずは大切な一歩になります。
そして、フラツシュバックからの回復とは、思い出さなくなること・・・ではありません。
少しずつ、一歩ずつ
その体験を、ご一緒に振り返りながら
トラウマ感情を
整理・消化(昇華)してゆくこと。
そして他の思い出や記憶の中に
同化してゆくこと・・・
記憶や思い出には、楽しかった事もあれば、悲しかった思い出・辛かった記憶もあります。
それらの一つになってゆくこと。
・・・カウンセリングの上での
大切なことは色々あるのですが・・・
そうした思を大切にしながら
ご一緒にお話しをしています。
カテゴリー【心と身体】