内因性うつ病について


  メランコリーとうつ病

| はじめに |

ここでは「うつ病」・・・
正しくは「内因性うつ病」について
お伝えしています。

お読みいただけると幸いです。

うつ病とは、本来は昔から
「内因性うつ病」と呼ばれるものを指します。

内因性うつ病は、ひと昔前まではメランコリー(melamcholia)と呼ばれていました。

メランコリーは、デプレッション(depression)が広く使われるようになる前の (内因性)うつ病の旧名である。
濱田秀伯 精神科医・精神病理学

しかし一般では、メランコリーという言葉は「憂鬱」という意味で、広く使われています。

| うつ病は増えているか? |

うつ病が増えている

うつは心の風邪なので風邪をひいたら風邪薬を飲むように、抗うつ剤を飲みましょう)」という宣伝が、マスコミを舞台におこなわれています。

何か「意図的な裏」を感じながら
こうした一連のキャンペーンを見ている人たちがいます。

私がこの三十年間、臨床場面で見てきた限りにおいて言うのですが、本物のうつ病、正しくは内因性うつ病は増えているとは思いません。
「うつ病は増えている」という言説はまやかしであり、ずさんな診断基準
(アメリカ製のマニュアル診断) によって成立したものです。時に私は、そこに誰かの作為すら感じてしまいます。
中安信夫 精神科医・精神病理学
うつ病が増えてきているという話を、あちこちでお聞きになると思います。
しかし、私なんかの専門の立場から見ますと、本当の意味のうつ病
(内因性うつ病)というのは増えていない。むしろ、どちらかというと減っているんじゃないかという気がします。
どういうことかと言いますと、「うつ病」と呼ばれて増えているといわれるのは、実は本当のうつ病ではなくて、抑うつの状態を主な症状とする、別のものをうつ病といっているのではないか、ということです。

木村 敏 精神科医

| 希死念慮 |

うつ病では、たとえ軽度に見えても、
必ず自殺念慮を抱えていると考えて、治療・対応していく必要がある、とされています。

中安信夫氏は、こう語っています。

(内因性うつ病の診断を間違えてならないのは)うつ病は、神経症性の抑うつだとか抑うつ反応と違って、どんなに軽症であっても、また初期であっても希死念慮が必発であり、稀ならず自殺企図が生じるからである。
中安信夫 精神科医

| 内因・外因・心因 |

上でも記したように、
本来のうつ病の正式な名称は
「内因性うつ病」といいます。

臨床精神医学では
昔から、様々な病態について
その病態の元にある発病要因を

内因性・外因性・心因性という
三つの領域に捉えてきました。

木村 敏 精神科医・精神病理学
精神医学では以前から、内因性・外因性・心因性の三つの原因領域を、区別して考えていました。

心因性とは、心理的な要因が元になって生じた病態について云われる言葉です。

最近問題になっているPTSD『心的外傷後ストレス障害』、これなんかは複雑なものですが、やはりこれも心因性です。
それから、昔から神経症と云われてきた病像、「抑うつ神経症」や「神経症性うつ」なども含めて、これらも「心因性」のカテゴリーに入ります。
というよりもむしろ、そういった神経症性の病像こそ、心因性の病態の代表的なものなのです。

外因性というのは「器質性」というものと、だいたい同じ意味です。
身体あるいは脳に、具体的に確認できるような形で生じている疾患や病変によって、二次的に精神的症状や精神的な障害を引き起しているものを指します。

そして、こうした心因性、外因性を除いたものを「内因性の精神疾患」と呼んできました。

精神医学の中心的な病気。つまり統合失調症、本格的なうつ病
(内因性うつ病)、躁うつ病、パラノイアと呼ばれる妄想病、いわゆる非定型精神病などは、すべて「内因性」に分類されています。

精神医学という専門領域が、内科学から分離して存在している理由。単なる心療内科ではない精神科というものの存在意味。それが内因性の疾患なのです。
もしそれが、「心因性」や「外因性」にすべて解消してしまえるものならば、精神医学の存在理由なんか、どこにもなくなってしまうはずのものなのです。

| 生気(せいき)悲哀 |

うつ病の初期の頃に訴えられるものに、「生気悲哀」と呼ばれる症状があります。

生気悲哀は、直接的には身体症状として訴えられますが、単なる身体の症状ではなく

うつ病の初期に体験した最も辛い症状のひとつは、心と身体が渾然一体となった苦痛であり

・・・というふうに、
内因性うつ病を、自ら六度にわたって経験した精神科医の田中恒孝氏が、うつ病の生気悲哀について語っています。

内因性うつ病の生気悲哀について、患者さんは、身体が「だるい」「重い」「胸の圧迫とモヤモヤ感」「お腹が気持ち悪い」「吐き気」「痛み」といった、多種多様な身体的不快感として訴えることが多い。
田中恒考 精神科医

頭の周りに紐がきつく巻きつけられたみたいな、我慢できない圧迫感

腸のあたりに鈍い感覚があります。腸の動きがゆっくりで詰まっているような苦しさがある

胸の上に重石がのっていて、呼吸ができない感じになる

吐き気がして、胸がどきどきして手が震え、身体が圧迫されてる感じがする

眼がこわばって同僚と視線を合わせられない、後頭部が痛いというかモヤモヤして、スッキリしない

こうした生気悲哀は、内因性うつ病の患者さん全てに認められるものではありませんが、
内因性うつ病に特有の病態、と云われています。

この生気悲哀の訴えが、
心気(しんき)症という神経症として
扱われることがあります。

心気症とは、
自分は何かの重い病気に侵されている
・・・という不安に
強く囚われ続けるものです。


| 厭世観と自責観念 |

うつ病では、病像が進むにつれて
厭世的、悲観的な観念が、思考を占めてゆくようになります。

その人にとっての生きてゆく内的な「支え・よりどころ」としての〝何か〟が
失われてゆくような気分・心境の中で
徐々に厭世観に沈んでゆくものです。

(うつ病では)自分がいちばん得意とするものが、まっ先にできなくなっていく。
神田橋條治 精神科医

そして自分を責め、
自分の不甲斐なさを責め
「とり返しのつかない」思いに
苛まれてゆきます。


| 抑制と自律神経の症状 |

うつ病には、抑制(よくせい)と呼ばれる状態・症状があります。

内因性うつ病が重くなるにつれて、動作や行動、思考などの面に「抑制」が現れてきます。

抑制は生体にも及び、自律神経系の不調和
(突発的発汗・のぼせ・口内の渇き・便秘 等々)が見られるようになります。

うつ病のうつ状態では、まず「抑制(よくせい)」が特徴である。
行動はのろくなり、口数も少なくなる。「口が重い」「重苦しい動き」という印象である。ひどくなると、這っている虫を見ても「いっしょうけんめい働いている、オレよりエライ」と感心する。

その抑制は自律神経系や身体にも及び、つばも涙も出なくなり、口がかわく、便秘となり、食欲もなくなる。
食べていても味がわからなくなり「ただ口に入れています」と云う。表情の動きも抑制される。
決断がつかなくなり、ひどいときには階段の途中で、上がるか降りるか決められなくて、立ち往生したりする。
うつ病は身体と心とにわたる病気である。

中井久夫 精神科医
うつ病というのは自律神経系の不調和が、ほとんど必発であらわれるんだ。
だから、たとえば腹直筋の緊張とか掌の汗とかね。

手に汗かく患者さんがいたら「これ足の裏まで汗かくと重症なんだけど、あなたの足の裏はどうですか」って聞くんです。それで「靴下が濡れます」とか云ったら、「そうか、だいぶ進んでいるよ」というふうにして、ひとつずつやっていくと
(症状を)共有できるんです。
神田橋條治 精神科医
たとえば、全般的に緩慢な動作や挙動。うつむきがちで萎縮した姿や雰囲気。苦渋を呑み込んだような、同時に生気を失った表情。
こちらからの質問に対する即答性に欠け、返答までに間があき、途切れがちな応答ぶり。ゆっくりした抑揚に乏しい小声など。

これらの表出
(外観上の特徴)は、内因性うつ病の診断には必須のものであって、こうした表出の観察なくしては「うつ症状」の鑑別診断はできない。
中安信夫

| スマイリング・デプレッション |

注意すべきは「顔を作れる」能力が身に付いている場合だ。
そういう人ほど、深い抑うつを抱きつつ、うつのさなかでも「顔(表情)をつくる」ことができて、笑顔をたやさないことが多い。
スマイリング・デプレッション である。

だから、昨日楽しそうに談笑していた人が、今日どうして飛び降り自殺をしたのかと、周りがいぶかることになる。

中井久夫

| 薬は休息するためのもの |

内因性うつ病とはこうした病像の故に
初期治療として本来であれば
「休息すること」が不可欠ですし、

「本人が余計につらくなるから、頑張れと励ましてはしけない」とされるわけです。

うつ病の場合には、薬は第一義的には
「休息をサポートするため」に必要とされるものです。

(うつ病の治療は)薬物治療と休息療法という両輪からなる。わたしの経験では、休息を抜きにした薬物治療の効果には疑問がある。
笠原 嘉(よみし)精神科医
治療とは治すことです。抗うつ剤を出したら、これこれの症状が薄れた。しかしその時もその後も薬は飲んでいるまんま。そんなのは治療とは云いません。

「抗うつ薬は松葉杖ですから、それで改善しても偽りの回復ですよ」と僕は患者さんに伝えています。

薬での回復は、仕事へ戻るためではなく、うつ病から回復してゆくための生活の工夫や、ひいては再発の予防の工夫、すなわち生活や生き方を見直すためのもの、であることを強調します。

神田橋條治 精神科医

| 多様なうつ(鬱)像 |

加藤忠史氏は、このように書いています。

うつ病とはどういうものか、という認識が、治療者の中ですら共有できなくなっている現状がある。

たとえば、休暇は楽しめるが職場には行けないと訴え、周囲の無理解を非難する神経症傾向の強い患者と会っているメンタルクリニックの医師と、自殺未遂を起こす妄想観念の強い重症のうつ病患者を担当している精神科医とでは、「うつ 病」のイメージは まったく異ってしまう。

加藤忠史 精神科医

カテゴリー心と身体