【気質】持って生まれているもの


「気質」が忘れられている

| はじめに |

わたしたちは誰もが
生まれ持っての『気質』というものを
与えられています。

ここでいう気質とは
自意識や性格というものが形成される以前。
つまり、生まれた時には既に
自分の遺伝子の中に在るものです。

そして、この気質に動かされながら
自分というものが作られてゆきます。

身体や肉体的な面では
これを「体質」と呼んでいます。

そして気質というものは
人それぞれで様々ですが

カウンセリングや臨床において
実は、とてもないがしろにされています。


本人に働く根底的な力

気質とは、生まれた時にはすでに存在し
その中で自分自身が生きている故に
自らで客観化することは困難ですし

しかも、本人に働くドライブ力は
後天的な性格などよりも
よほど根底的な力を備えています。

それというのも、
世間で性格と云われるものは
気質の土台の上に形成されるからです。

地球にたとえるなら、
マントルの上に乗っている地殻
・・・と云えるかも知れません。

地殻が性格であり、マントルが気質です。

地球の断面図

| 一生持ち続ける |

複数の子どもを持つと分かることですが

よく観察していると、生まれ落ちた時から
一人ひとり違いのあることが見て取れます。

栴檀(せんだん)は
 双葉(ふたば)より芳(かんば)し

という諺に見られるように

生まれ持っての気質というものが
幼児の頃からすでに現れ出ているのです。

生まれつきという側面がありますね。
私は孫が二人いて、四歳と二歳ですが、もう二人で性質が違っていますよ。「なるほど、このへんからだんだん個性が出てくるのか、生まれつきというのはたいしたものだな」と恐ろしくなりますがね。

小林秀雄 文学者・文芸評論家

わたしの尊敬する神田橋條治氏は
(精神科医・心理療法家)

小学生の頃、ことに
小学校低学年の頃というのは
その人の気質が
表によく現れ出ていることが多い。

そう語っています。

しかも、乳幼児研究によって
分かったことは

こうした生まれ持っての気質は
成人し、大人になってからも
ずっと持ち続けるということです。

三宅和夫 乳幼児心理学
これは私が、時々訪問をしていたケースなのですが。
そのお母さんは、妊娠中から「子どもはいらない、子どもなんか嫌だ」と言っている人だったんです。「子どもなんか出来て、失敗した」と嘆いていたんです。
そして、生まれた赤ちゃんはというと、気質的にとっても楽な赤ちゃん、育てやすい赤ちゃんだったんですね。

泣いてもすぐに機嫌が良くなるし。
適度な活動性もあるし、敏感し過ぎたりもしないし。女の子でしたが。

そうすると、妊娠中にはあんなことを言っていたお母さんが、変わってくるんですよね。訪ねるたびに、お母さんの様子が変わってくるのが分かるんです。

だんだん子どもが好きになってきてるんだな。赤ちゃんとの関わりが楽しいんだな、ということが感じられてくる。

このお母さんの変化は、明らかに子どもの影響です。
もしこれが、とても気質の難しい赤ちゃんが生まれていたら、と考えるとこわくなります。
おそらく、子どもにもお母さんにも、難しい問題が生じたのではないか、と思われます。


気質を重要視していた

フロイトは、ご存じのように
精神分析療法を生み出した人物です。

しかしフロイトも、その理論とは別に
臨床や治療では
気質を重要視していた、と云います。

精神分析の創始者であるフロイトは、もともと自我の体質的(ここでいう気質)基盤を重要視しており、自分の理論が環境偏重主義の中で、心因論的な解釈にひどく偏ったものとなるのを恐れていた。
池見 酉次郎(ゆうじろう)
精神分析療法に限らず、すべての治療は相手の資質に添うときに効果が上がる。
「人を見て法を説く」はそれである。

神田橋條治 精神科医・心理療法家

ここで申し上げている「気質」とは、

何かの心理テストで分かる、
というような
抽象的なものではありません。

生きてきた中での
具体的なエピソードや行動を通して
自ずから見えてくるもの
・・・としてあります。

カウンセリングとの関係から

これまでのカウンセリングの欠点は
フロイトが恐れていたように

心理的な見方に偏り過ぎるために
その人の気質への理解に
欠けていたことにあります。

上でも記したように
本人に働くドライブ力は
根底的なものを備えているのです。

そして、カウンセリングを行なう上で
気質との関連で知っておくべき大事な事は

その人の気質の部分から現れ出ている事象に対して、内省的なカウンセリング(「自分と向き合いましょう」的なもの)を行ない、ご本人もそれを一生懸命にやってゆくと、間違いなく医原症を作り出すことになる
・・・ということです。

端的に云うと
カウンセリングによって悪くなってゆく
ということです。

気質を生かせる場

生まれ持っての気質を
何らかの形で生かせるような
生活や人生を送れていたり

あるいは、
自らの気質と親和性のある場や環境を
何処かに持てるならば

その人は、きっと
生きている実感や充実感を
得られるに違いありません。

一方で、たとえ他人の目からは
良さげに見られているような人でも

気質を抑圧するような生き方・
気質と反するような生活や場の中に
生きざるを得ない場合には

ご本人にとっては
生きている内的実感が希薄なまま

あるいは心中に
何かは分からないけれど
息苦しいものを抱えたまま
生きていかなくてはなりません。

それ故、もともとの気質が
なにか過剰で不自然な形や行動として
日常の中で現れる場合もあります。

| 逸脱行動への衝動 |

人と場合によっては
そうした息苦しさと抑圧感が

これまで築いてきたものを壊すような
逸脱的な行動への衝動として
噴き出してくる場合もあります。

世間を見回してみても
そのようなケースを
しばしば目にすることになります。

カウンセリングの立場から考えた時に
まず必要なことは

自分の大切な気質というものを
理解することかも知れません。

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