
「気質」が忘れられている
| はじめに |
わたしたちは誰もが
生まれ持っての「気質」というものを
与えられています。
ここでいう「気質」とは、
自意識や性格というものが形成される前の
生まれた時には
既に自分の中に在るものを指しています。
そして、気質というものは
人それぞれで様々ですが
この事はカウンセリングや臨床において
実は、とてもないがしろにされています。
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| 本人に働く根底的な力 |
気質とは、生まれた時には
既に本人の中に存在するものなので
自分だけで客観化することは困難ですし
しかも、本人に働くドライブ力は
後天的な性格などよりも
よほど根底的な力を備えています。
それというのも、
世間で性格と云われるものは
気質の土台の上に形成されるからです。
地球にたとえるなら、
マントルの上に乗っている地殻
・・・と云えるかも知れません。
地殻が性格であり、マントルが気質です。
地球の断面図
| 一生持ち続ける |
子どもを持つと分かることですが、
よく観察していると
生まれ落ちた時から、一人ひとり違いのあることが見て取れます。
「栴檀(せんだん)は
双葉(ふたば)より芳(かんば)し」
という諺に見られるように
生まれ持っての気質というものが
幼児の頃からすでに現れ出ているのです。
しかも、乳幼児研究によって
分かったことは
こうした生まれ持っての気質は、
成人し、大人になってからも
ずっと持ち続けるということです。
三宅和夫 乳幼児心理学
これは私が、時々訪問をしていたケースなのですが。
そのお母さんは、妊娠中から「子どもはいらない、子どもなんか嫌だ」と言っている人だったんです。
「子どもなんか出来て、失敗した」と嘆いていたんです。
そして、生まれた赤ちゃんはというと、気質的にとっても楽な赤ちゃん、育てやすい赤ちゃんだったんですね。
泣いてもすぐに機嫌が良くなるし。適度な活動性もあるし、敏感し過ぎたりもしないし。女の子でしたが。
そうすると、妊娠中にはあんなことを言っていたお母さんが、変わってくるんですよね。訪ねるたびに、お母さんの様子が変わってくるのが、分かるんです。
だんだん子どもが好きになってきてるんだな。子どもとの関わりが楽しいんだな、ということが感じられてくる。
このお母さんの変化は、明らかに子どもの影響です。
もしこれが、とても気質の難しい赤ちゃんが生まれていたら、と考えるとこわくなります。
おそらく、子どもにもお母さんにも、難しい問題が生じたのではないか、と思われます。

| 気質を重要視していた |
フロイトは、ご存知のように
精神分析療法を生み出した人物です。
しかしフロイトも、その理論とは別に
臨床や治療では
気質を重要視していた、と云います。
精神分析の創始者であるフロイトは、もともと自我の体質的(ここでいう気質)基盤を重要視しており、自分の理論が環境偏重主義の中で、心因論的な解釈にひどく偏ったものとなるのを恐れていた。
池見酉次郎(ゆうじろう)
精神分析療法に限らず、すべての治療は相手の資質に添うときに効果が上がる。
「人を見て法を説く」はそれである。
神田橋條治 精神科医
ここで申し上げている「気質」とは、
何かの心理テストで分かる、
というような
抽象的なものではありません。
生きてきた中での
具体的なエピソードや行動を通して
自ずから見えてくるもの
・・・としてあります。
| 気質を生かしてゆく |
これまでのカウンセリングの欠点は
フロイトが恐れていたように
心理的な見方に偏り過ぎる余りに、
その人の気質への理解に
欠けていたことにあります。
上でも記したように、
本人に働くドライブ力は
根底的なものを備えているのです。
そのため、生まれ持っての気質を
何らかの形で生かせるような
生活や人生を送れていたり、
あるいは、
自らの気質と親和性のある環境や場を
何処かに得られるならば
その人は、きっと
生きている実感や充実感を
得られるに違いありません。
一方で、たとえ他人の目からは
良さげに見られているような人であっても
気質を抑圧するような生き方・
気質と反するような生活の中に
生きざるを得ない場合には
ご本人にとっては
生きている実感が希薄なまま
あるいは心中に
何かは分からないけれど
息苦しいものを抱えたまま
生きていかなくてはなりません。
| 逸脱行動への衝動 |
人と場合によっては、
そうした息苦しさと抑圧感が
これまで作ってきたものを壊すような
逸脱的な行動への衝動として
噴き出してくる場合があります。
世間を見回してみても
そのようなケースを
しばしば目にすることになります。
カウンセリングの立場から考えた時に
まず大切なことは
自分の大切な気質というものを
理解することかも知れません。
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