
言葉が持ってしまう意味とは
| 未来形の裏の意味 |
わたしたちは、たとえば子供に対して、しばしば「お前はダメだなぁ」という意味のことを言う。それは単に、何かの行為に対する事実を述べているだけです。
ところがその子供にとって、それは「ダメであろう」という予言、「ダメであれ」という命令として、脳裏に刻まれることがある。
たとえば英語では、命令形を未来形でいうことがありますね。そのほうが強い命令になるからです。もともと未来形と命令形は同じものです。
「コミュニケーションの世界」では「こうなるだろう」と言うことは、「こうなれ」という意味として(前意識に)伝わる。
だから、子供に対して、お前はダメだということを語ることは、お前は失敗するだろう予言を、与えているようなもかも知れません。
このように語るのは
柄谷行人氏
(『言葉と悲劇』ちくま学術文庫)です。
わたしたちの身体が
食物を食べて生きるように
わたしたちの心は
〝言葉〟を食べて生きている。
ちなみに、前意識とは
「自覚されている意識」の世界と
「無意識」の世界との境界に存在して
意識とも無意識とも交通可能な
半覚醒意識・・・と考えられています。

そして、わたしたちは
与えられた〝予言〟に抗して
この人生を生きて行かなくてはならない
・・・場合がある。
柄谷氏は、そう語っています。
注意すべきことは、いったん語られた〝予言〟は、言われた人間を「拘束」し、左右してしまうということです。
ダメだと繰り返し言われてきた人間は、自分でどんなに頑張ってやってみても、どこか自信を持てないままに、ずっとやり続けなければならない。
絶えず「自分は失敗するかもしれない」と思ったりするし、また、その観念とも闘い続けなければなりませんね。
そうなると、人間は子供の時に与えられた予言と闘っているようなものです。
その意味からすると、われわれは白紙の中で生きていくのではなく、まさに〝予言〟の中で生きていく、と言っていいかもしれません。

| 予言となる言葉たち |
「お前はダメだ」を別の言葉
・・・たとえば
「あんたは、
何をやってもグズなんだから」
「本当にのろまな奴だ」
というのもあります。
子ども(わたしたち)にとって
〝予言〟となる言葉は他にも
いろいろ存在するかも知れません。

| 予言の物語からの卒業 |
カウンセリングでお会いし
お話をうかがっていると、
こうした〝予言の物語〟の中で
ご自分の一部分を殺しながら
生きている方に
出会うことがあります。
もちろん、ご本人自身は
予言の物語の中にいることを
自覚してはいらっしゃいません。
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でも、いろいろなことを
ご一緒に整理し、そして考えてゆく中で
〝予言の物語〟から
そっと抜け出して行かれる方が
いらっしゃいます。
カテゴリー【こころの物語】