

不安発作そして不安神経症
| 小説家・宮本輝氏の場合 |
小説家の宮本輝氏が
会社勤めをしていた時代に
不安発作に襲われた経験を語っています。

最初は、休みの日に友達と競馬に出かける途中に発症したんです。
電車の中でめまいと動悸が激しくなって、なんだかおかしいな、と思った瞬間に、地面の底に沈んで行くような感覚に襲われたんです。
それ以降、電車に乗っていると、頻繁にそんな症状が起きてくるようになり、そのうち電車に乗ると考えただけで、心臓がドキドキするようになって「このまま死んでしまうかも」という恐怖心が生まれるようになっていきました。
「もう会社に通うのは無理、サラリーマンは向いてないんじゃないか」と思い始めました。
| 不安発作の多くは |
不安発作の多くは
宮本輝氏がそうであるように
ご本人からすると
なんの前触れも思い当たる理由もなく
突然胸が苦しくなったり。
急に動悸が襲ってきて
息苦しい状態になってゆく。
あるいは
意識が遠のくような感覚になる。
身体の病気だとか
薬物等の化学物質、が原因ではなくて
こうした状態に襲われることを
「不安発作」と呼んでいます。
パニックとかパニック発作
と呼んでいる場合もあります。
それは急性の状態である。
ごく短い前兆を自覚することもある。
たとえば、頭が急に軽く感じる、頭がクラクラする感覚がある、頭が熱くなってくる、などと表現されることがある。
それに続いて、自律神経症状を主とした自覚症状があらわれてくる。動悸、胸苦しさ、頭や体の震え、手足のしびれ感、血が引いてゆく感覚、めまい、悪寒、冷や汗など。
そして、いても立ってもいられないような強い不安が迫ってくる。
このまま死んでしまうのじゃないか、気が遠くなって倒れてしまうのではないか、などの恐怖感が襲ってくる。
高橋 徹 精神科医

( 症例報告から )
デパートへ買い物に行き店内を歩いていると、急に貧血を起こして、頭がクラクラして、胸が苦しくなって、頭から血が引いていく感じが何度もして、激しい不安に襲われた。
息苦しさを覚え、動悸がして、今にも死ぬのではないかと恐ろしかったが、体がヘナヘナして動けなかった。
十分ぐいらしてから、店員に頼んでタクシー乗り場までついて来てもらい、タクシーで近くのクリニックへ行った。
六・七年前から年に一・二度、入浴時や激しく動いたとき、心的緊張などの時に、発作的に動悸のすることがあった。
某年七月、機械を修理するため、高い台に飛び乗った途端に動悸が起こった。
これまでならすぐ止まる動悸が、なかなか止まらないばかりか、そのうち息苦しくなり、手足が痺れ、頭がぼんやりしてきた。
患者は死への不安に襲われ、工場内の診療所へ運んでもらった。
ライブハウスで過呼吸になって以降
仕事の場でも
些細なきっかけで発作が起こるようになり
仕事を続けられなくなった方も
いらっしゃいます。
突然こうした発作に襲われると
誰もが「重い病気の前触れではないか」
と心配になります。
そしてクリニックや病院を受診して
検査をしてもらいますが
「重大な病気につながるような異常は
特に見当たらない」
と告げられたりします。
中には
「(医者や看護師から)
神経症です、と云われた」
という方もいらっしゃいます。
心臓に病的な状態がなくても
人は精神的な要因によって動悸を訴えるような場合も、決して少なくありません。
最近では、発作に襲われて
病院や救急外来を受診するという方が、
とても増えているようです。
こうした不安発作の多くは
軽いものは十分程度
長くても三十分くらい安静にしていると、
自然におさまっていきます。

| 不安神経症とは |
宮本輝氏の場合には
不安発作を繰り返すことで
「不安神経症」の状態へと病像が進んだことが分かります。
不安神経症までになってしまうと、
たとえば
電車に乗るのが怖くなってしまったり。
人混みや慣れない場所に
一人で行けなくなってしまったり。
ひとりで外出できなったり。
緊張を感じるような場には
いられなくなってしまったり。
・・・というように、行動の上で
さまざまな困難が生じてきます。
そのため、仕事を失ってしまったり、
転職を繰り返すことも起きてきます。

| 不安発作から不安神経症へ |
宮本輝氏のケースのように
急性の不安発作が、一過性で終わらずに
二度・三度と繰り返されたり。
あるいは、不安発作以降に
身体の不調感が続くようなケースでは
不安神経症の状態へ
病像が進んで行きやすいことが
云われています。
不安発作のケースは少なくない。
内科外来や救急外来などでは、しばしば見られるが、多くは一過性で終わる。
しかし中には、その後漠然とした不安感や体の不調感を抱えるようになったり、再度不安発作を起こして、繰り返してゆくことがある。
そうした状態が続くと、様々な不安症状をあらわすようにり、不安神経症になってしまうケースがある
高橋 徹 精神科医

( 症例報告から )
仕事で車を運転中に突然、動悸、発汗、呼吸困難、からだの震えが生じて、死の恐怖に襲われた。
車を止めて休んでいると、症状は消失したが、頭の重さや倦怠感が、ほぼ毎日続いた。
職場で急に息苦しくなり、動悸がして、「今にも死ぬのではないか」という恐怖におそわれ、落ち着かなくなった。
上司に申し出て、近くの内科を受診した。検査の結果、重大な病気の前兆ではないと云われ安心する。
しかし数日後に、出勤途上で再び発作を起こし、それ以来なんとなく落ち着かない気分が続き、頭がフラッとしたり息苦しくなるなどの状態が、繰り返し起こるようになる。
通信制高校に入学したが、第一回目のスクーリングの日、昼休みに最初の発作があった。
突然、喉頭部がしめつけられるような感覚がしたかと思うと、息苦しくなって、心臓の鼓動が高まり、全身が震え汗が吹き出してきた。
苦しくなって、このまま死んでしまうのじゃないか、と不安になり医務室に連れて行ってもらう。しばらくして発作は自然におさまった。
それからスクーリングでの休み時間になると、時々発作が出現するようになった。

| 整理しながら・・・ |
「こうした場で話しをするって
大切なんですね」
カウンセリングにいらしてみて
そうおっしゃる方は少なくありません。
症状への薬物治療、ばかりになると
回復から遠ざかる場合も
あるかも知れませんし、
時間の経過と共に
状態が複雑化してゆくことも
しばしば拝見しています。
ちなみに、状態をこじらせてゆく事を
複雑化と云っています。
メンタルクリニックに通院して
服薬を十年以上続けているけれど
なにも変わっていない。
あるいは、
「自律神経失調症だと言われて
薬をもらって飲み続けている」
・・・そうした方もいらっしゃいます。
薬だけでよくなるのであれば、誰も苦労しません。
星野 弘 精神科医
「こういうふうに話してゆくと
いろいろな事が分かってくるものですね」
そうおっしゃる方がいらっしゃいます。
カウンセリングでは、
じっくりお話をうかがうこと。
そして、ご一緒に振り返りながら
これ迄の出来事や気持ちを改めて整理しながら、考えてゆきます。
カテゴリー【心と身体】