

不安発作と不安神経症の関係について
| はじめに |
不安発作の多くは、
なんの前触れもなく
急に胸が重苦しくなったり、
急に動悸が襲ってきて
呼吸が苦しい状態になってゆく・・・。
そして多くの場合、ご本人からすると
思い当たる理由が分かりません。
体の病気だとか
薬物等の化学物質が原因ではなく、
こうした状態に襲われることを
「不安発作」と呼んでいます。
そして、不安発作をきっかけにして
「不安神経症」と呼ばれ状態に
陥ってゆくケースがあります。
| 小説家・宮本輝氏の場合 |

小説家の宮本輝氏が
会社勤めをしていた時代に
不安発作に襲われた経験を語っています。
最初は、休みの日に友達と競馬に出かける途中に、発症したんです。
電車の中でめまいと動悸が激しくなって、なんだかおかしいな、と思った瞬間に、地面の底に沈んで行くような感覚に襲われたんです。
それ以降、電車に乗っていると、頻繁にそんな症状が起きてくるようになり、そのうち電車に乗ると考えただけで、心臓がドキドキするようになって「このまま死んでしまうかも」という恐怖心が、生まれるようになっていきました。
「もう会社に通うのは無理、サラリーマンは向いてないんじゃないか」と思い始めました。
宮本輝氏の場合には
不安発作を繰り返すことで、
「不安神経症」の状態へと
病像が進んだことが分かります。

| 不安神経症になると・・・ |
不安神経症と呼ばれる状態になると、
たとえば
電車に乗るのが怖くなってしまったり。
人混みや慣れない場所に
一人で行けなくなってしまったり。
ひとりで外出できなったり。
・・・というように、行動の上で
さまざまな困難が生じてきます。
そのため
仕事を失うような事も起きてきます。
ライブハウスで過呼吸に襲われ
それ以降、些細なことから
不安発作が繰り返されて
仕事も続けられなくなってしまった方も
いらっしゃいました。
ちなみに、昭和の頃までは
道に落ちている犬のフンを
知らずに踏んでしまうのではないか
・・・という不安な想念によって
外を出歩けなくなる症状の人が
しばしば見られました。
「話しをするって大切なんですね」
改めて、そうおっしゃる方も
いらっしゃいます。
症状や状態が悪化してゆく前に
薬の治療だけでなく
カウンセリングのような場が
大切であることが理解されつつあります。

| 急性の不安発作とは |
それは急性の状態である。
ごく短い前兆を自覚することもある。
たとえば、頭が急に軽く感じる、頭がクラクラする感覚がある、頭が熱くなってくる、などと表現されることがある。
それに続いて、自律神経症状を主とした自覚症状があらわれてくる。
動悸、胸苦しさ、頭や体の震え、手足のしびれ感、血が引いてゆく感覚、めまい、悪寒、冷や汗など。
それに引き続き、強い不安が迫ってくる。いても立ってもいられないような、いまにも死ぬのではないか、わけが分からなくなって取り乱してしまうのではないか、などの恐怖感が襲ってくる。
高橋 徹・精神科医
突然こうした発作に襲われると、
誰しもが「何かの病気の前触れではないか」
と心配になります。
そして、実際に
クリニックや病院を受診して
検査をしてもらいますが
「重大な病気につながるような
異常は特に見当たらない」
と告げられたりします。
中には
「(医者や看護師から)
神経症です、と云われた」
という方もいらっしゃいます。
心臓に病的な状態がなくても、
人は、精神的な要因によって
動悸を訴えるような場合も
決して少なくありません。
最近では、発作に襲われて
病院や救急外来を受診するという方が、
とても増えているようです。
こうした不安発作の多くは
軽いものは十分程度、
長くても三十分くらい安静にしていると、
自然におさまっていきます。

( 症例報告から )
デパートへ買い物に行き店内を歩いていると、急に貧血を起こして、頭がクラクラして、胸が苦しくなって、頭から血が引いていく感じが何度もして、激しい不安に襲われた。
息苦しさを覚え、動悸がして、今にも死ぬのではないかと恐ろしかったが、体がヘナヘナして動けなかった。
十分ぐいらしてから、店員に頼んでタクシー乗り場までついて来てもらい、タクシーで近くのクリニックへ行った。
六・七年前から年に一・二度、入浴時や激しく動いたとき、心的緊張などの時に、発作的に動悸のすることがあった。
某年七月、機械を修理するため、高い台に飛び乗った途端に動悸が起こった。
これまでならすぐ止まる動悸が、なかなか止まらないばかりか、そのうち息苦しくなり、手足が痺れ、頭がぼんやりしてきた。
患者は死への不安に襲われ、工場内の診療所へ運んでもらった。

| 不安発作から不安神経症へ |
宮本輝氏のケースのように
急性の不安発作が、一過性で終わらずに
二度・三度と繰り返されたり。
あるいは、不安発作以降に
身体の不調感が続くようなケースでは、
不安神経症の状態へ
病像が進んで行きやすいことが
云われています。
不安発作のケースは少なくない。
内科外来や救急外来などでは、しばしば見られるが、多くは一過性で終わる。
しかし中には、その後漠然とした不安感や体の不調感を抱えるようになったり、再度不安発作を起こして、繰り返してゆくことがある。
そうした状態が続くと、様々な不安症状をあらわすようにり、不安神経症になってしまうケースがある
高橋 徹・精神科医

( 症例報告から )
仕事で車を運転中に突然、動悸、発汗、呼吸困難、からだの震えが生じて、死の恐怖に襲われた。
車を止めて休んでいると、症状は消失したが、頭の重さや倦怠感が、ほぼ毎日続いた。
職場で急に息苦しくなり、動悸がして、「今にも死ぬのではないか」という恐怖におそわれ、落ち着かなくなった。
上司に申し出て、近くの内科を受診した。検査の結果、重大な病気の前兆ではないと云われ安心する。
しかし数日後に、出勤途上で再び発作を起こし、それ以来なんとなく落ち着かない気分が続き、頭がフラッとしたり息苦しくなるなどの状態が、繰り返し起こるようになる。
通信制高校に入学したが、第一回目のスクーリングの日、昼休みに最初の発作があった。
突然、喉頭部がしめつけられるような感覚がしたかと思うと、息苦しくなって、心臓の鼓動が高まり、全身が震え汗が吹き出してきた。
苦しくなって、このまま死んでしまうのじゃないか、と不安になり医務室に連れて行ってもらう。
しばらくして発作は自然におさまった。
それからスクーリングでの休み時間になると、時々発作が出現するようになった。

| カウンセリングでは |
「症状」だけへの対応になってしまうと、
かえって状態が
複雑化しがちかも知れません。
中医学(中国医学)には
「壊病」という言葉があります。
(えびょう)
見当はずれの対応を繰り返すうちに
複雑化してしまった状態を云います。
カウンセリングは薬ではなく、
お話しをしてゆくことを通して
神経の緊張をといていったり、
心身のストレスや不安を緩めたり、
少しずつ
心や気持ちを整理してゆくことを
大切にしているものです。
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