
抑うつ気分と抑うつ状態
| はじめに |
ここでは「うつ(鬱)」・・・
正しくは「抑うつ症状」について
お伝えしています。
長くなりますが
お読みいただけると幸いです。
うつ(鬱)とは俗称で、
専門用語的には
「抑うつ(よくうつ)」と云います。
「メンタルクリニックを受診したら
うつですね、と言われました」
・・・そうおっしゃる場合には
「うつ病」のことではなく
たいていは
「抑うつ」を指して云っています。
そして「抑うつ」とは、
抑うつ症状と云うように病名ではなく
症状をあらわしている言葉です。
「胃痛」という言葉が病名ではなく
症状を意味するのと同じように。
加藤忠文 精神科医
「うつ」状態のことを「抑うつ状態」という場合もあります。しかし意味には本質的な違いはありません。
専門用語としては、むしろ「抑うつ状態」という言葉のほうが、よく使われます。
| 抑うつ症状とは |
抑うつ症状は、臨床的には
「抑うつ気分」と
「抑うつ状態」とに分けて考えられます。
そして抑うつ症状 イコール うつ病
ではありません。
胃痛イコール胃潰瘍でないように。
抑うつ症状は
うつ病の中心的な症状ですが
しかし、うつ病に限らず
様々な要因によって起き得るものです。
生きることは誰にとっても
大変なことだからです。
あるいは、持って生まれた体質的に
抑うつ症状を繰り返しやすい人も
いらっしゃいます。

| 抑うつ気分について |
「抑うつ気分」とは、
次のような状態として訴えられます。
○憂うつな気持ちが心を占めてくる。
○気分や気持ちが沈んでゆく。
○虚しい気持ちが心に迫ってくる。
○訳もなく物悲しさや悲哀感に襲われる。
○一人になると何故か悲しくなる。
○わけもなく涙が出てくる。
抑うつ気分が更に深くなると・・・
○何をしても楽しく感じられない。
○楽しいという気持ちが起きてこない。
○生きていても仕方がないような
気持ちになってゆく。
○悲観的な思いが深くなってゆく。
○何もかも辛く、ダメに思えてくる。
○自分をダメだと責め続けてしまう。
○死んだら楽になるのでは
という考えが浮かんでくる。
抑うつ気分では
こうした気分状態に陥ります。
| 学生の訴えから |
たとえば
高校生や大学生から
このような訴えを聞くことがあります。
友達といる時には、元気に明るく振舞って、悩みがない人みたいに見られてるけど 、一人になると、気持ちが沈んで哀しくなって、何んにもやる気が起きなくなる。
テレビを見ていても、なんでもないところで涙が出てくる事がある。
最近では、死んだら楽になるのかなって、考えるときがある。
深い抑うつ気分が見てとれます。

| 心身の苦しさを伴う |
抑うつ〝気分〟と聞くと
もしかすると多くの人は
「誰にでも、よくあること」のように
思われるかも知れません。
しかし〝抑うつ症状〟とは
ただ、元気が出ない・やる気が起きない
というものではありません。
たとえ軽度であっても
かならず心身の苦しさを伴います。
水には「水圧」
気体には「気圧」があるように
「うつ圧」というものが
心と身体とを
ひどく辛く苦しくしていきます。
そうした意味では、
抑うつとは、経験した人にしか
本当は分かって貰えないかも知れません。
| 不安と焦燥感 |
抑うつ症状では、
焦燥感や不安感に襲われて
ひどく落ち着かない状態になって
じっとしていられずに
部屋の中をウロウロ歩き回ったり、
早朝や夜遅くに外を歩き回ったりして
家族や周囲の人から心配される
・・・というケースもあります。

| 季節性の抑うつ症状 |
季節の変わり目になると
抑うつ気分に陥る、という人もいます。
筆者なども、その一人です。
いまは若い頃よりも
随分と程度は小さくなりましたが
季節の変わり目になると、
一週間か十日ぐらい
抑うつ気分に苦しめられることが
しばしばありました。
ひとりになると妙に気分が沈む。
憂うつで悲しい気分・虚しい気持ちが
身体の奥の方から迫ってくる・・・
そんな時ふと気がつくと、
季節の変わり目だった、ということが
何度となくありました。
以前、北欧に長年住んでいらした方が
面談にいらした時に
その国では、季節性のうつ病の人たちが
とてもたくさんいる、というふうに
お話しされていました。

| 抑うつ状態について |
「抑うつ状態」というのは
抑うつ気分だけでなく
思考や意欲といった
精神機能までもが低下する状態です。
(抑うつ気分)+(精神機能の低下)
という状態です。
抑うつ気分にとどまっていたり、
抑うつ気分が主体の時には
そうした辛い気分を抱えながらも
外見的・外面的には
いつものように振る舞えたり、
いつもの様にやれている状態です。
ですから周囲からは
ほとんど分かりません。
抑うつ気分はあっても、趣味は楽しめるとか、友人と出かけられるというのは、抑うつ状態ではない。
原田憲一 精神科医

| 出来なくなってゆく |
抑うつ状態になるにつれて
日常生活や家事や仕事
学業や人付き合いなどで
困難を感じるようになっていきます。
抑うつ状態とは、
これまで普通にやれていた物事が
次第に出来なくなってゆく状態です。
たとえば、
普段なら、いろいろアイデアが浮かんでくるのに、全然浮かばなくなる。
そうした訴えも、お聞きします。
たとえば、普段だったらしないような
ケアレスミスを繰り返したり。
うっかり忘れ、物忘れが起きてきたり。
仕事や学業の能率が落ちて
記憶力が減退したのでは・・・と
不安を感じる場合もあります。
実際に思考・記憶力が抑うつ状態のために低下しているのである。
原田憲一 精神科医

| 頭がうまく働かない |
たとえば、
霧や靄(もや)がかかったみたいで
頭が思うように働かない、
考えがまとまらない。
文章を読んでいても、
ただ文字を追っているばかりで
内容が頭に全然入ってこない。
このような状態がみられます。
そのため
抑うつ状態になってゆくと
「やらなければ」
「なんとかしなければ」と
ひどく焦るようになります。
思うように出来ず、焦燥感に襲われます。
しかし「なんとかしなければ」と
焦ってみても
空回りになることが多くなります。
自分がこうした状態になるなんて、考えたこともなかった。
そうおっしゃる方もいます。

| 深まる抑うつ感 |
抑うつ状態も、初期で軽度な程度から
次第に深まってゆく場合もあります。
抑うつ状態が深まるにつれて
これまで好きだったもの・
楽しんでいたものへの関心や興味も
失われていきます。
外出したり
人に会うのもひどく億劫になり、
たとえば、外出しようとして
頑張って支度はするけれども
なかなか玄関から出られずに
時間ばかりが過ぎていく・・・
ということを繰り返したりします。
仲間に○○(趣味の集まりや飲み会)に誘われるけど、なんとか理由をつけて断っている。
でもいつもいつも断り続けていると、逆にどうしたんだと心配されるので、たまに無理して出かけるけど、苦痛でつらくて、すぐに帰りたくなる。
そう打ち明けて下さる方は
少なくありません。
それでも
「自分はまだ出来る、まだやれる」と
思えている時には
それを支えに踏ん張れますが、
何かのきっかけで
「自分にはもう無理だ、もうダメだ」と
感じたとき
心身の破綻が
いっぺんに襲ってくることがあります。
それは言葉を換えると、
最後の一滴までも絞り尽くしてしまった
・・・そう云えるかも知れません。
それを境に
布団やベットから起きられなくなって
そのまま仕事や学校に
行けなくなってしまうことがあります。
そうした状態になられてから
カウンセリングにお越しの方も
いらっしゃいます。
もちろん、回復には
遅すぎるということはありません。
ご一緒に一歩ずつ、
回復に向けて歩んでいきます。
| 回復のために |
繰り返すようですが、
抑うつ症状とは、たとえ軽度であっても
心身のつらさ苦しさを伴います。
薬を服用しているけど、薬だけの治療には限界を感じて、カウンセリングに申し込んだ。
うつ状態の診断を受け、投薬治療中です。
こちらのホームページを見てカウンセリングを受けてみたいと思いメールしました。
現在仕事から離れ、メンタルクリニックに通院しています。今後このような状態にならないために、カウンセリングでいろいろ整理していければ、と思っています。
そうした方たちも
お話しにいらして下さいます。
あるいは、
薬を飲んでいるけど、効いているのかどうか、よく分からない。
薬ばかりが増えてゆく。
・・・というお話もお聞きします。
カウンセリングでお会いする方の中には
「早くどうにかしたい」
「早く抜け出したい」という焦りから
自分流に無理をして、かえって
症状や状態を複雑化させてしまったり。
悪循環から、むしろ回復を妨げる結果になっていることを、しばしば拝見します。
一方で、苦しさ辛さを、ご自分一人で抱えていたり、一人で耐えていらっしゃる方もおられます。
カウンセリングは
試しに一度、のような形でも
もちろん大丈夫です。
精神科医の神田橋條治氏は
次のように語っています。
治療とは治すことです。
抗うつ剤を出したら、これこれの症状が薄れた。しかしその時もその後も薬は飲んでいるまんま。そんなのは治療とは云いません。
「抗うつ薬は松葉杖ですから、それで改善しても偽りの回復ですよ」と僕は患者さんに伝えています。
薬での回復は仕事に戻るためではなく、回復してゆくための生活の工夫や、ひいては再発の予防の工夫、すなわち生活や生き方を見直すためのもの、であることを強調します。
神田橋條治 精神科医
カテゴリー【心と身体】