おとなしくてイイ子


         
赤ちゃんや幼い子どもを
タンポポと蘭の花にたとえて
説明しているのが、

児童精神科医の渡辺久子さんです。


| タンポポと蘭の花 |


タンポポは元気いっぱい。

たとえアスファルトの切れ目でも、
水と日光があれば

根と葉を伸ばし
元気に花を咲かせます。

一方、蘭の花はとても繊細です。
タンポポのようには、いきません。

蘭の花が育ちやすいように
環境を整え、手入れをしてあげて、

美しい花を咲かせてくれます。


赤ちゃんや子どもにも、
「タンポポタイプ」と
「蘭の花タイプ」の子どもがいるのです。


| おとなしい子ども |


たいていの赤ちゃんや子どもたちは、

親が多少間違ったことをしても
元気に育ってくれます。

そして、自分の要求を泣いて訴え、
親が手をかけずには
いられなくさせます。

でも中には、

とてもおとなしくて、
静かな赤ちゃんや子どもがいます。


| お母さんのお話から |


この子は、手のかからない子どもでした。

・・・・・・・・・・・・

上の子が手のかかる時期で、大変だったので、この子が静かな子ですごく助かったんです。

・・・・・・・・・・・・

部屋に一人で寝かせておくと、はじめはよく泣いてたけど、忙しくてかまってやれずにいたら、いつの間にかひとりでいても、泣かなくなりました。

・・・・・・・・・・・・

我慢強くて、転んでも泣かなかったり、ほかの子どものようには、自分から要求や訴えをすることが少なかったり。
だから、とてもしっかりしているように見えていました。

・・・・・・・・・・・・

ひどく叱ったときにも、他の子のようには泣いたりせず、じっとわたしのことを見ていたのがとても印象に残ってます。

いろいろなお母さん方から、
こうしたお話を
お聞きすることがあります。

もちろん、
すぐにこうしたお話を
していただけるわけではありません。

何回かお会いして
カウンセリング関係が生まれてから・・・

と云うよりも、

問題や親子関係が
良い方向へ進んでいった後から
少しずつ語ってくださる・・・

と申し上げたほうが正しいでしょう。

今でもあのコとは、なんとなく距離があるっていうか、ほかの子どもたちとは少し違って、あのコとは距離感みたいなものをずっと感じてきたんです

・・・・・・・・・・・・

この子の場合には、なにも構ってやれないうちに、いつの間にか一人で大きくなっていった感じです。
だから今、それまでの分を取り戻している気がします。

そう打ち明けて下さるお母さんも
いらっしゃいます。


| 心の絆と安心感覚 |


上のような生育歴のエピソードは、

愛情への安心感覚〟を持てないまま
生きている方の
幼い頃のお話として、

お聞きする場合もあります。



生を受けて
これから育っていこうとする
赤ちゃんや子どもです。

しかも、
生まれ落ちるとすぐに走り出すような
他の動物の赤ちゃんとは違って、

人間の子どもは、どうしても
手をかけて
お世話をしてもらう必要があります。


泣いて自分の存在を周囲に告げる。
要求を訴える。

親が手をかけずにはいられなくさせる。

元気な赤ちゃんと子どもの姿です。



でも、蘭の花タイプの
繊細な赤ちゃんや子どもの場合には

いろいろな事情の重なりによって、

お母さんとの情緒的な絆が
十分に育つことを

妨げられてしまう場合があります。

| 心のやり直し |


心の安心感や心の絆が
育ち切らずに大きくなってしまうと、

子どもによっては
幼稚園や保育園の頃から

「ちょっと心配」と思えるような
様子をみせることがあります。


そこを通過すると、
今度は思春期前後に

自分から問題を表現してきたり、
問題を訴えてくる子どもが出てきます。

でも問題を出してくれたり
訴えてくれたら、
実は喜ぶべきことかも知れません。

それはむしろ、
健康な力のある印だからです。

もう一度やり直す必要がありますよ、と
教えてくれているからです。


問題がもっと深刻だったり、
あるいは
問題を訴えられるような状況にないと、

諦めている時には

子どもは心の奥にフタをしたまま
生きてゆくことを選びます。


思春期にやり直しができなかった人は、
社会に出てから、
あるは中年期前後に、

なんらかの問題を訴えることが、
多くなるかもしれません。


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