
「カウンセリング 森のこかげ」です。
この記事では、
『心身症』について詳しく解説しています。
心身症とは端的にいうと、
心理的要因によって生じている「身体の病気」「身体の症状」を言います。
精神科臨床の言葉でいうと、
「心因性
の身体疾患や身体症状」のことです。
心身症は「しんしん・しょう」と読みます。
「心身症、そんな病気があるの?」と思う方も、いらっしゃるかも知れません。
しかし、内科的な病気に心身症が多いことは
昔から知られていました。
最後までお読みいたいて、
「心身症」について理解していただけたなら幸いです。
心身症とは
国立精神・神経医療研究センター
「こころ」の状態は神経系・免疫系・内分泌系を通して身体に影響を及ぼし、種々の病気を発症させる。
また、逆に身体の変化も「こころ」に影響を与える。
心身症という言葉を
目にしたことがあるでしょうか?
たとえば、
ミステリー作家として活躍されていた
故・夏樹静子さんが
心身症による腰痛に苦しめられたことは、
ご自身が公表された
ことで
広く知られています。
精神科医の末松弘行氏が
次のように語っています。
末松弘行 精神科医
日本心身医学会はづきのような見方を示しています。
『心身症というのは、体にあらわれる病気で、心理的な問題が背景になっており、そのことに配慮しなければ、病態もわからないし、治療もうまくいかない』 これはすごくわかりやすい概念です。

『心身症』とは、本当の身体の病気として
発症・発病するものを指します。
内科の領域でも、心身症の患者さんが少なくないことが知られています。
中井久夫 精神科医
二十世紀前半の有名な内科医・バウアーは晩年、彼の内科患者の三割が心身症であったと述べている。
河野友信 心療内科・心身医療
大学病院のプライマリ・ケア外来 (総合心療科)を受診する患者の六割は、心身症としての病態をもつと言われています。
ハーバード大学でも川崎医大でもそのような報告をしていますね。
一人で頑張っているような人に
「心理的・精神的な要因」と聞くと
なんとなく「心が弱い人がなるもの」
そういうイメージを
持たれてしまうかも知れません。
しかし、それは
大変に間違った先入観と云えます。
吾郷晋浩(あごう・ゆろゆき)氏が
「一人で頑張っているような人に多い」と語ります。
吾郷晋浩 国立精神・神経センター
心身症は一般に、性格が弱かったり、社会的に困難な事態に置かれている人がなる、と誤解されていますが、
むしろ一人でいろんな問題を背負って頑張っているような人に、心身症は多いものです。

心身症としての病気
「心身症として現れやすい疾患」として
次のような病気が挙げられています。
- 本態性高血圧・一部の不整脈
※本態性とは原因がはっきりしないという意味 - 心臓神経症・消化性潰瘍
- 潰瘍性大腸炎・糖尿病
- 関節リウマチ・慢性蕁麻疹・湿疹
(九州大学病院で) バセドウ病患者の発病当時の精神状態を調べた結果では、三十人の患者のうち、十三人が発病前に、強いショック体験にさらされており・・・
池見酉次郎(ゆうじろう) 心療内科
しかし実際には
どのような身体疾患も
心身症として現れることになります。
中井 久夫 精神科医
心身症としては、肩コリのような軽いものから、高血圧だとか命を落としかねないクモ膜下出血、心筋梗塞まである。
神戸の地震(阪神淡路大震災)では、クモ膜下出血、多発性胃潰瘍、心筋梗塞が見られた。
たとえば激務の後、休暇を取って旅行に出る場合にも、心筋梗塞が起こる場合がある。
中心性網膜症は、急性ストレス関連の眼科疾患である。第二次世界大戦の米兵に多数発症した。
緑内障もストレス関連で発症することがある。サラリーマンでは決算期に悪化する。
糖尿病も心身症として突然始まることがある。
中井 久夫 精神科医
興味深いのは、緑内障などにも心理的な要因が、つよく関係する場合のあることである。
池見酉次郎 心療内科
糖尿病患者の血糖値は、ストレスで上昇することが認識されています。
村上和雄 筑波大学名誉教授
多くの人にみられる“軽い心身症”
『心身症』などと聞くと
何か特別な病態と感じるかも知れませんね。
しかし〝軽い心身症〟ということでは
日常生活の中で多くの人に見られます。
たとえば、ストレスが重なったり
ストレスや疲れが溜まってくると
歯茎が腫れたり痛むようになったり。
手のひらの皮膚が荒れるようになる
という人も、実際にいらっしゃいます。
あるいは
口内炎や口唇ヘルペスが出てくる人。
体に湿疹(しっしん)などが出てくる人。
肩コリがひどくなる人。
・・・等々というように
人によって様々なパターン症状があります。
これらの多くは
たいてい治療の必要はなく
暫くすると消えてゆくものですが
これらは『軽い心身症』の例と云えるでしょう。
身体だけ診ていても分からない
身体だけ診ていても、
それが心身症であるかどうかは分かりません。
そのため心身症の患者さんの多くは
本当の意味での治療やケアとは
無縁なままに置かれることになります。
吾郷晋浩
発病や病気の経過に心理的な要因が深く関わっていて、たんなる薬物療法だけでは、治療効果が思うようには上がらない。
したがって、そのような患者さんの中には、もう治らない、と諦めてる人も多いものです。
加えて、ご本人自身も
心理的な要因が関わる、ということに
強い拒否感を示す場合があります。
心身症が考えられる時
心身症が想像される場合には
いろいろなことを自由に話せる場の中で
気持ちや問題を少しずつ整理しながら
お話しをしてゆくことが、大切になります。
カウンセリングは
そうした場としての意味を
とても大切にするものです。
こうした“丁寧な面談”の重要性については
中井久夫氏も繰り返し述べています。
中井 久夫 精神科医
すべて身体であらわれるので、本人は精神的・心理的問題が関わっていることを納得しないことが多い。
患者を取り巻く状況と身体症状との関連から、心身症であることを察して、丁寧な面談で、少しずつ問題を共に理解してゆくことがよい。
ある女性のご相談者から
「病院のカウンセリングに行っていた時は、症状の話ばかりだったけど、ここだと、いろいろな事を話せて聴いてもらえるので、自分に合っている」
そう云われたことがあります。

成田義弘『心身症』から
溶接工として働いていたが、最近過労気味であった。
その頃から腹部膨満感(胃やお腹が膨れて張っている感覚)があったが、吐き気と頭痛が加わって、内科を受診。胃カメラの検査で胃潰瘍と診断され、投薬を受けた。
しかし、その後も症状は一進一退。
しだいに冷や汗が出たり、イライラするようになり、仕事への意欲も低下した。病院で抑うつ状態と診断、休養を指示される。
面談をしてゆく中で、患者は、はじめは感情的・心理的な問題と症状との関係を否定していたが、しだいに就労条件への不満や、上司との緊張した関係について語るようになっていった。
そして、症状の増悪と職場のストレス状況との関連に気づいていき
「今まで漠然と不満に思ってたいたことが聞いてもらえて、楽になった」と云って、症状が少しずつ改善し、復職して行った。
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