神経症で悩んでいる方へ・カウンセリングで大切なこと

心と身体

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神経症の症状には
その人なりの理由や背景があるものです。

そのため、症状のことばかりでなく
いろいろなことを話し合いながら、ご一緒に考えてゆくことが、とても大切です

この記事では、カウンセリングの中で
どのようなことを大切にしているかを
お伝えしています。

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はじめに

神経症と呼ばれる分野は、あまりにいろいろな症状があり、しかも「体験した出来事や心の悩み」が原因として大きいものや、「生まれつきの体質や気質」が要因として関わるもの。「こころの働きの癖」が原因となっているものなど、さまざまです。
 神田橋條治 精神科医

神田橋氏の言葉にあるように
神経症として表れる症状は、とても様々なものがあります。

そのため、「人の数だけ症状がある」とも云われる程です。

昔は「神経衰弱 (しんけい・すいじゃく)」とか「ノイローゼ」という言い方が、普通にされていました。

たとえば、1980年代くらいまでは

道に落ちている犬のフンを踏んでしまい
それをきっかけに
外を歩けなくなってしまう、という人たちがいました。

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臨床での大切な考え方

カウンセリングとは臨床りんしょう行為であり
カウンセラーとは臨床家(職人)と呼ばれる者に属しています。

下坂幸三 (しもさか・こうぞう)氏が
このように語っています。

下坂幸三 精神科医・心理療法
カウンセリングに志す者なら青年・壮年期には一日七〜八時間、臨床に打ち込める時間が持てたら、幸せです。
難しい例も敬遠しないで多数例の経験を積まなくては、いつまでたっても、腕の立つ心理療法の職人にはなれない、と信じます。

そして臨床には
ひとつの大切な考え方があります。

下坂幸三
症状の意味を大切にするということは、治療的方法の違いを越えて、これまでは臨床の場での基本的な姿勢でした。
しかし薬物治療が全盛になった今日、精神科医療の世界では、このことが失われつつあることが心配です。

・・・症状とは

なにか大切な意味があって、現れているものかも知れない。
あるいは
なにかの必要があって、現れ出ているものかも知れない。

・・・臨床には
そうした大切な考え方があります。

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臨床(りんしょう)とは・・・
患者あるいはクライエントを、対象として扱い距離を置いて観察し操作する立場ではなく、一人一人との〝治療的・相互関係〟に自らの身を置く、という意味。

迷い込まないためにも

こんな症状に、自分にとって意味があるなんて少しも思えない
そう云われることがあります。

おっしゃる通りかも知れません。

ただ、この場合の意味とか必要とは
雨が降りそうなので傘を持っている
・・・というような

整合的で目に見えて分かりやすいもの
・・・ではないところに
その深い特徴があるものです。

✴︎ 整合 (せいごう)的とは・・・
 物事が矛盾なく綺麗に整っている様子。

そのため
〝症状〟を取り除くことにしか
両者 (ご相談者とカウンセラー)の目が向かずにいると

深い森の中に入りこんで
道を踏み迷うような事になりかねない

・・・ということがあります。

神田橋條治 精神科医
神経症のパターンや症状は、すべて好ましからざるものであり、誤った学習の結果であると見なされがちである。しかし、この見方は治療には役立たない
好ましくないと前提して始める治療が、どのような経過をたどるかは、すでに日常目にする通りである。

以前のことですが
強迫きょうはく症の悩みでいらしていた女性に

病院のカウンセリングの時には症状の話ばかりだったけど、ここだと、いろいろなことを話して聴いてもらえるので、自分に合っている
・・・そう云われたことがあります。

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症状を大切にみる、ことの意味

誤解されないために申し上げると

カウンセリングの中で
「症状の意味を考えていきましょう」
などと、やっているわけではありません。

臨床における
症状の意味を大切にする、とは
具体的には
次のような〝姿勢〟を意味しています。

たとえば
著名な精神科医の故・木村 敏 (びん)氏が
このような経験を語ります。

木村 敏 精神科医
私は以前、自分が診察していた若い患者さんが、症状がとれたとたんに自殺をしてしまったという、苦い経験をしたことがありますが、この経験から、十分な治療関係が築かれてゆく前に、症状だけを治療するのは、ときとして非常に危険なことだ、という教訓を得たように思っています。

また安永 浩(やすなが・ひろし)氏も
次のような事例を語っています。

安永 浩 精神科医
長年の神経症症状が見事にとれて医師・本人ともども喜びあったのに、突然自殺を遂行するというショッキングなケースも、実際に存在する。

小倉 清(おぐら・きよし) 精神科医
症状には、それなりの意味があり、歴史があり、必然性があってあらわれてきているのであろう。そういった背景を無視することは、臨床家のなすべきことではないのである。

おかしな云い方かも知れませんが

〝症状〟を大切にみてゆくこと・・・

それが回復への
大切な大切な第一歩になる様に思います。

       二匹の蝶

気持ちを整理しながら

下の言葉は
筆者とのカウンセリングの中で
ご相談者の方たちが、語ってくださったものです。

「落着いてきて (症状が) 気にならなくなってきたら、自分の中がカラッポになってしまったような、ひとりぼっちで暗闇に落ち込んでしまったような、そんな気持ちになってしまいました」

「もうこれ以上良くなりたくない」

「良くなりたいと思っているはずなのに (症状) がなくなったり、軽くなったりしていくのが、とっても不安なんです」

お読みになって
意外に思われるでしょうか?

しかし、人の心に添うていくなら
少しも意外な言葉ではありません。

何故なら、
ご自分の中の様々な気持ちと出会い
それを少しずつ消化してゆくこと・・・

それが、神経症に限らず
〝こころ〟が関わることでは
とても大切になるからです。

中井久夫 精神科医・臨床家
ただ症状がなくなればいい、消えればいい、というものではないはずです。
ものごとには「よい回復の仕方」と、そうでない回復の仕方があるからです。

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身体にあらわれる症状

身体の〝機能障害きのう しょうがい 〟としての神経症も
よく知られています。

機能障害とは
肉体には具体的に疾患しっかんや病変は確認できないにもかかわらず
その動きや働きの面で、失調がみられる状態です。

たとえば、役者さんの中には
セリフを喋っている時に
口が思うように動かなくなる症状に
苦しむ方がいらっしゃいます。

ジストニアと呼ばれます。
カウンセリングにもお越しになります。

音楽大学の在学生だとか
音楽教室の先生の中には

楽器演奏にかかわる指や手が
思うように動かなくなる症状に悩むケースがあります。

手や指に身体上の異常は見られません。

スポーツ選手に見られるイップスも
このカテゴリーに入ると思います。

機能障害として現れる形の神経症を
『転換(てんかん)型』と呼んでいます。

カウンセリングをお考えの場合

ここに挙げたような
身体にあらわれる症状の場合では

ご本人自身の焦る気持ちと
「どうにかしなければ」という思いから

症状が(心理的な意味も含めて)
かなり〝いじくり回されて〟いることも多く
そうなると
最初に発症したその時点での姿からは
どんどん遠ざかった状態になっていきます。

カウンセリングをお考えの場合には

可能であれば
〝いじくり回し〟の浅いうち
発症後、できるだけ早めのほうが
良いように思います。

田辺靖雄さんのケース


      田辺靖男と九重佑三子の写真

歌手の田辺靖男さんのケースも、
こうした病態だったかも知れません。

ある朝、仕事に行くために玄関を出て、歩こうとしたとき、両足の付け根に激しい痛みが走って、そのまま一歩も歩けなくなってしまった。足を踏み出そうとすると激しい痛みが襲ってくる。
すぐに病院へ連れていってもらい、その日から車イス生活。

通院しながら、病院でありとあらゆる検査をしたけれど、どこにも異常が見当たらない。「原因不明」と告げられた。

そこで、すぐに入院するよう云われた時、奥さんで歌手の九重ここのえ佑三子ゆみこさんは、「原因が分からず、治療法もないというなら、入院させる意味がありません」と云って、自宅に連れて帰って来たといいます。

その日から、自宅で夫婦二人三脚で養生をしていく中で、また元気に歩けるようになり、1年後に仕事に復帰したということです。

玄関から出ようとして歩けなくなる暫く前から、体調の変調があったと云います。
たとえば、あくびが出て仕方がない。とにかくあくびが出る。
それから歌詞が覚えられなくなっていた。ぜんぜん歌詞が頭に入ってこなくて、ステージに出てもうまく歌えなくなっていたけど、忙しかったので、とにかく仕事をこなし続けていた、と云います。

もしかすると、発症のしばらく前から
疲労とストレスによって
なんらかの葛藤状態にいらしたのかも知れません。

奥さんの九重ここのえ佑三子ゆみこさんは、
「絶対に治る、良くなると信じていた」
と語ります。

もしかすると、ご主人を見ていて
何かを感じていたのでしょうか。

ただし、一見神経症ではないかと
見まかうような機能障害が
中枢神経の疾患による場合もあるため、
まず検査が必要です。

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