症状布置の意味と
診断での重要性について
「なぜ複数の診断名が付くのだろう?」
そんな疑問を感じたことはありませんか?
『症状布置』を理解することで、
診断名がいくつも並ぶ理由が見えてきます。
症状布置とは、
わかりやすく言い換えると
「症状同士がどういう関係性にあるか」という視点です。
この記事では
精神科での臨床を例にしながら、
症状布置という意味。
そして、
症状布置が持つ診断における重要性について、詳しく解説しています。
「症状布置」という考え方を通して、
診断・治療への理解が深まります。
わかりやすく具体例を交えながら、
順を追ってお伝えします。
精神科における症状布置とは?
症状布置とは
聞き慣れない言葉だと思います。
ひとことで言うと 『症状布置』とは、
複数の症状が見られる場合に
「症状それぞれが、どう関連し合って現れているか」を意味する視点です。
精神科医の中安(なかやす)信夫氏が
症状布置について語っています。
中安信夫『反面教師としてのDSM』
複数の症状の症状布置。
つまり、何が原発(げんぱつ)症状で
何が続発(ぞくはつ)症状であるのか。
更にはその続発症状は、どのような関連性によるものかという
複数の症状の関係性(因果関係)を考えながら、
患者の状態像を明らかにしていく必要があります。
中安氏の説明にあるように
「症状布置を考える」とは具体的には、
どの症状が原発症状(元になる症状)で、
どれが続発症状(関連して現れている症状)かを捉えることです。
原発症状と続発症状とは: 症状布置を構成する要素

イメージしやすいように、
この図を自然災害に例えてみます。
地震は「原発症状」にあたります。
つまり〝元にあるもの〟から直接に現れ出ている症状です。
元にあるものとは、
「地殻プレートの巨大なひずみ」です。
そして、地震による「被害」
地震によって発生する「津波」は、
原発症状(地震)との因果関係から生じる
「続発症状」ということになります。
原発症状とは
原発(げんぱつ)症状とは、
病の本体や心理的な葛藤・悩みから、直接的に生じている症状を指します。
複数の症状が見られる場合の
「根っこ」にあたる部分です。
続発症状とは
続発(ぞくはつ)症状とは、
原発症状の影響を受けて現れる症状のことです。
したがって続発症状のことを
二次症状・三次症状と言いますし、
「付随(ふずい)症状」
「随伴症状」とも呼ばれます。
なにが原発症状で
どれが続発症状・付随症状かを
具体的に考えてゆくこと。
それが症状布置を考えることになります。
臨床や治療で大事になること : なぜ症状布置が必要なのか
では、なぜ精神科の臨床では、
症状同士の関係を考えることが
必要不可欠なのでしょう?
その理由は、
症状を生み出している「元にあるもの」を捉えることが、診断の本質になるからです。
精神科医の木村 敏(びん)氏が、
症状と病との関係を
次のように語っています。
木村 敏『臨床哲学講義』
症状そのものは病気ではありません。
身体の症状の場合でも、生体が自己防衛のために、そういう症状を出しているわけです。だから、すぐに解熱剤や頭痛薬で安易に症状を取り除くことは、考えものなのです。
「症状」とは病気ではありません。
本当は〝(原発)症状をもたらしている元にあるもの〟を治療しなくてはならないので、
症状はむしろ体が病気に反応して出しているものなのです。
精神的なものも同じです。
「症状」とは、病(元にあるもの)そのものではない、ということ。
たとえば、
心配事・悩み事が「元にあるもの」だとします。
それによって生じる
「強い不安」は原発症状です。
さらに、不安によって生じる
悲観的な思考や不眠などは
「続発症状(二次症状)」になります。
したがって、この場合には
元にある「心配事や悩み事」への支援やサポートが、本質的なものとなります。
「対症療法」という場合には
この例でいうと、
「不眠」だとか「不安」という症状に対する治療(主に薬物治療)のことを指します。
このように、
症状を数え上げるだけでなく
症状の関係性に目を向けることで、
対症療法だけではない治療やサポートが、理解されていきます。

診断名が複数並ぶ理由 : 症状布置の欠けた診断例
著名な精神科医の神田橋條治氏が
「症状布置の視点が欠けた診断治療」について、苦言を呈しています。
神田橋條治『うつ病治療』
最近、紹介状を見ると、複数の診断名が付いていることがある。
たとえば、適応障害・PTSD・不安障害と診断が並べられ、それぞれの症状に当てはまるとされる薬を出している。
それぞれの診断の間の、どれが原発症状でどれがどれの付随症状か、という視点はない。
昨今の診断の付け方は、見かけ上の本質を問わない方向に流れている。
神田橋氏が語っているように、
現れている症状に診断名をつけて
それを並べているだけでは
治療的な診断とは呼べなくなります。
片田珠美(かただ たまみ)氏も
自身の経験を、次のように述べています。
片田珠美『薬でうつは治るのか』
マニュアル診断の問題もある。他院から紹介される患者さんの中には
「表面に現れた症状だけを見て、元にある病をきちんと診断せずに薬を投与しているのではないか」と思われるようなケースも少なくない。
ここで片田氏が語っているのも
要するに、症状布置の欠けている例です。
症状布置の視点のない診断や治療とは、
たとえるなら
次のようなものかも知れません。
様々な症状が「水」だとして。
その元にあるものが
水道管に開いた穴、だとすると
水道管に穴が開いて水が溢れているのに、
水道管に穴が開いている
ということが分からないままに
溢れてくる水をバケツで汲み出したり、
水に浸かった物を慌てて片付けている姿に、似ています。
必要な方に届くことを願っています。
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