症状の布置(ふち)とは


症状の布置(ふち)」とは、
聞き慣れない言葉かも知れません。

しかし、臨床や治療においては
症状布置への視点は
必要不可欠なものと考えられています。

症状の布置を考える

ひと言で云うと、症状布置とは

複数の症状がみられる時に
それら症状同士の関係を考える
・・・ということを意味しています。

症状間の構造を考える、とも云います。

中安信夫氏が、次のように語ります。

複数の症状の症状布置(何が原発症状で何が続発症状であるのか、更にはその続発症状は、どのような因果関係によるものかという、複数の症状の構造化)を考え、状態像を明らかにしてゆく。
中安信夫 精神科医

| 原発症状と続発症状 |

原発症状とは

一番最初に出現したもの。
あるいは、
複数の症状が見られる場合には
それらの〝根っ子〟に当たるもの
・・・という意味になります。

続発症状とは

原発症状との因果関係において、
あるいは
その影響下において起きている症状
・・・という意味になります。

続発症状のことを
二次症状・三次症状とも云いますし、
付随症状とも云われます。


症状布置を欠く診断

精神科医の神田橋條治氏は、
近頃の症状布置の視点の欠けた診断・治療ついて述べています。

昨今、治療につながらない診断が横行している。最近、紹介状を見ると、四つぐらい診断名が付いていることがある。
たとえば、発達障害・適応障害・PTSD・不安障害と診断が並べられ、それぞれに効果があるとされる薬を出している。
それぞれの診断の間の、どれがどれの付随症状か、というトータルな視点
(症状布置への視点)はない。
昨今の診断の付け方は、見かけ上の、本質を問わない方向に流れている。

神田橋條治

中安信夫氏も、ある事例検討の中で
次のように語っています。

(この例に出された症例の誤診では)
最大の原因は、何が原発症状で何が続発症状であるか。
加えて、それら続発症状は、どのような因果関係によるものか、という複数の症状の構造化である「症状布置」という観点が欠けているからです。

たとえば、患者に抑うつ症状を認めた場合、私ならば、それは原発症状なのか、それとも何かに起因した続発症状なのかを鑑別(見分ける)するよう心掛けます。

そして、その抑うつ症状が、何かによって引き起こされている反応性のもの(続発症状)ならば、その症状を引き起こした主要因はなんだっただろう、と考えます。

この症例の場合には、その主要因は初期統合失調症による苦悩であると判断し、結局抑うつ症状は二次的なものであって、治療上の最重要症状とはならない、と判断されます

中安信夫・精神科医

つまり、例に出された症例の場合には

抑うつ症状は
初期統合失調症という病によって
患者さんにもたらされた二次症状なので

元にある病への治療が
最も重要になる、という意味です。

症状の元にあるもの

このようにして
複数の症状を構成的に捉えてゆくこと。

それを
症状布置を考える」と云います。

では、なに故に臨床や治療では
症状布置への視点が大切なのでしょう。

その理由は、
元にある病態は何なのか
・・・という見立てがなければ

本質的な意味での治療が
望めなくなるからです。

症状そのものは病気ではありません。
身体の症状の場合でも、生体が自己防衛のために、そういう症状を出しているわけです。だから、すぐに解熱剤や頭痛薬で安易に症状を取り除くことは、考えものなのです。
「症状」は病気ではありません。
本当は病気(症状をもたらしている元にあるもの)を治さなくてはいけないので、症状は、むしろ体が病気に反応して出しているものなのです。
精神的なものも同じです。

木村 敏 精神科医

様々な症状が「水」だとして。

その元にあるものが
水道管に開いた穴、だとすると

症状布置の視点のないままの
治療や援助は

水道管に穴が開いて水が溢れているのに、
水道管に穴が開いている
ということが分からないままに

溢れてくる水をバケツで汲み出したり、
水に浸かった物を
慌てて片付けている姿に
似ているかも知れません。

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